いっしょに生きよう - 死にたいあなたへ
嘆き川柳 お絵かき掲示板
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ハーレキン
これは僕が少し前に体験したこと。
とても不思議で、多分周りには信じてもらえないこと。

…………まずは僕の話をしようと思う。


僕は小さな頃から病弱で、あんまり外に出たことがなかった。
外で運動などをする時は必ず沢山の検査を受けなきゃいけなかったし、そのせいか僕もあんまり外に出るのは好きじゃなかった。
僕の家はどちらかというとお金持ちで、普通のお家じゃ受けられないような治療を僕はこれまでずっと受けてきた。海外にも何回か行った…勿論全部治療だけど。
家族は皆僕を大事にしてくれた。でも実際は手間がかかる僕を両親が本当はどう思ってるかなんて目に見えてる。

その中で叔父さんはずば抜けて異常だった。
僕を異常なまでに愛し、僕のことを最優先に考え、僕に全てを注いでくれた。
後から聞いた話だと、生き別れた弟に顔や雰囲気が似ていたんだという。それでも異常だった。
一方叔父さんは仮面が好きで、旅行先や勤務先で買った仮面のお土産をよく病室に飾ってくれた。真っ白な能面のようなもの、スパンコールが散りばめられたもの、孔雀のようにカラフルな羽がついたもの………
叔父さんが持って来てくれる仮面はどれも初めて見るものばかりで、毎回僕を異国に居るかのような気分にさせてくれた。
でも真っ白な病室にその仮面たちは馴染まなくて、叔父さん以外の人間は仮面を見ると顔をしかめる。………僕はもう慣れてしまった。



目を開くとそこはいつもの病室だった。
…また倒れたのかな……『今回』はなんだか心臓の辺りが痛い。
上半身を起こし狭い部屋を一望する。仮面で彩られた壁はその重さで今にも剥がれそうだ。
ふと、一つの仮面と目が合った……ような気がした。
その仮面はなんだか他の仮面と違った。
なんというか…………黒いのだ。なんの装飾もない、果てし無い無彩色。ぽっかりと空いた目はどこか悲しそうだった。
びっしりと敷き詰められた仮面の中で、それだけが異常な空気を放っている。僕はなんだか『そいつ』から目が離せなくて、どれくらいそうしていたのだろう、上体を起こしたまま優に5分は目を逸らすことが出来なかった。
何かを感じたのだ………何かを。

「また叔父さんか…嫌だな、また母さんが顔をしかめる」



それから僕は暇さえあればあの仮面を見つめるようになった。気づくといつも目があってしまうのだ。
毎朝の血液検査の時も、味の薄い病院食を食べる時も、叔父さんがアタッシュケースから大量の仮面を出す時も…。
だけど不思議と恐怖心はなかった。最初から目が合うと神様に決められてたみたいに、僕は自然と『彼』を見ていたのだ。
家族や院内の人間は一人虚空を見つめる僕を気持ち悪がった。叔父さんでさえもそんな僕を遠巻きに見るようになっていた。

………変なの、貴方が持ってきた仮面でしょうに。



ある日体調が良かった僕はベッドから降り、その仮面を手に取ってみることにした。自分を虜にする『彼』をもっと間近で見たかったのだ。
上半身を起こし足にスリッパをはめる。日頃トイレ以外でしか使わないそれはすっかり白くなり、鳥の足のように細かった。
足の裏に力を入れ、若干ふらつきながらも立ち上がる。久しぶりに立ち上がって実感したが、やっぱりこの個室は僕には広すぎる。
薄暗い室内をゆっくり進みながら目の前の『彼』へと手を伸ばす。

途端、その手が何者かにより掴まれたことに、僕は数秒気が付かなかった。

「……………!?」
背筋に悪寒を感じ瞬時に手を引っ込める。そして手の主を一瞥した。

僕の斜め前に、男の人がいた。肩まで伸びた髪、端正な顔立ち、体に長いローブを纏い、先ほど払われた手を悲しそうに、しかし表情には出さず見つめていた。
そして、黒かった。
僕は瞬時にその人は『彼』だと思った。
普通の人なら不審者だとか言って喚き散らすだろう。だけど人生の半分以上を病室で過ごし外の世界の常識を知らない僕の頭はその時点で完全に麻痺していたのだ。
「………あたなは…誰なんですか。」
恐る恐る尋ねてみた。喉が震える。
その人は目線をこちらに向けると、おもむろに腕を上げて僕の頬に触れた。
ひんやりと冷たかった。
「……?」
「……………淋しいですか」
透きとおる、綺麗な声。「……え?」
「…貴方が『私』と目が合ったのは、淋しい、と思ったからだ……違いますか?」
あながち間違いじゃない。
「……何が言いたいんですか?」
「私は、人を『終わりの世界』へと導く者です……丁度貴方のような人を。」
驚いた。死神のようなものだろうか。
伏せ目がちに答えると、その人は僕の頬に触れていた手を宙へ上げた。
「……どうされますか、こちらに来られますか。」
「…………つまり死、ですか?」
僕の質問に彼は静かに目を閉じると、数秒後ゆっくりとまた目を開いた。
「貴方方の世界では…そうなります」
僕は考えた。
確かに僕は淋しかった。僕に会いに来てくれるのは血液検査の嗄れた看護婦さんと叔父さんだけだ、母さんも父さんも二ヶ月に一回来てくれるか否か。
学校にも行かないから、友達もいない。

……死んだ方がいいのかもしれない。


でも。



「いいです、僕は生きます」









あの後のことは分からない。一切の記憶が無く、気がつけばいつものベッドに横たわっていた。
起き上がり『彼』を探す。だが敷き詰められた仮面の中にもう『彼』はいない。
叔父さんが持って行ってしまったのだろうか………

いや、違う。

僕の中で決意が固まったのだ。
生きる、覚悟が。


「………これが僕の人生だ」







14/11/12 23:03更新 / 紅葉

■作者メッセージ
お久しぶりです、紅葉です。
本当に久しぶりなので文章が変なところがあるかもしれませんが、悪しからず。
先日はポッキーの日でしたね、皆さんポッキー食べられましたか?
私は………トッポを食べました。

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