いっしょに生きよう - 死にたいあなたへ
嘆き川柳 お絵かき掲示板
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世界の証明
「命ってのはな、限りがあってさ」

「その終わりが何時来るかは誰にも解らない」

「でもその時を自分で決めることも出来るんだ」

「例えば屋上から飛び降りたり車道に飛び出したりすれば、
こんなクソみたいな世の中からさっさとサヨナラ出来るだろうさ」


そう言いながら俺に近付いてきた彼は
何処か遠くを見ているようでも、俺自身を見ているようでもあった。

その目は何処までも深い闇を知った故に輝く優しさで溢れていて
弱虫な俺は簡単に涙を零してしまう。


「痛みを感じながら笑うなんて残酷すぎる。
不幸しか知らないままに死ぬなんて出来やしないさ」

「今日だって、昨日までは俺らと同じ空気で息をしていた
何十万人の人が死んでいく。でも俺はその中の数人ですら知らないだろう」

「でもなその全ての人には父親がいて、母親がいて、家族がいて。
何十年も生きたうちの一瞬くらいなら幸せだと思える瞬間があっただろう」


むかし、友と繋いだ手で自分の首を絞める。
愛おしい人と抱き合った腕に傷をつける。
あたたかい食事と幸せを噛みしめた口で毒薬を飲み込む。

「俺はそんなこと許されるとは思わない。それが例え綺麗事でもな」

彼はいつの間にか傍まで来ていて俺の手を取っていた。
この前、最後に握った手よりもずっと冷たくて少し泣きそうになってしまう。

「今死んだらきっとあいつらは後悔するぜ。
悲しむ奴が居るはずだ。俺も、お前も、あいつらも」


彼は俺の頬を絶え間なく伝う涙を拭いながら言葉を紡ぐ。

その言葉は優しくて、でも不安定で繊細で触れれば崩れてしまいそうで。


「お前が居なくなれば、あいつはきっと自分を憎む。
あいつは哀しみに飲み込まれてしまうだろう」

「お前はあいつら二人にそんな人生を歩んで欲しくないだろ」


たとえば、言えなかったことがあって。
ありがとう、ごめんなさい、さようなら、愛してる。

その全てを後回しにしたらきっと一生伝えられない。


「明日はいつまで経っても明日のままなんだぜ、
誰も明日が来るとは保障されてないんだから」

「たとえ誰からも愛されなくても、みんな父親と母親がいて自分という存在がいる。
もしかしたら生まれてくるのは他の誰かだった可能性だってあったのに
その生存競争をまだ意志を持たないお前は必死に勝ち抜いたんだ。

そんな特別な存在なんだ。俺も、お前も、あいつらも」


「そんな人生なら、反吐が出るような最低なことも穢れのない朝日のような美しいことも
全部、全部さ、見てやればいいじゃないか」




疑いもなく明日を信じていたあの日。

いつまでもみんなで笑えると思っていたあの毎日。


俺達にはもう、遠い日の御伽噺だけど。


「穢れを知ったせいで純粋になった胸をナイフで突き刺せばいいさ。
この型でとって作られた道を外れることを何でそんなに怖がるんだろうな

信じたものが朽ちていくよな最低な世界で。
悲しみも苦しみも当たり前すぎて人が死を望むようなこんなクソみたいな世界で。」


ああ、お前はきっとあの日。俺達の前から姿を消したあの瞬間まで
きっとそんなことを思って生きていたんだろう。
そんな不安定で脆くてとても綺麗なそれを大切に抱えて生きていたんだろう。



「俺にすべて吐き出せなんてそんな無責任なこと言わねえよ。
俺がお前にしてやれることなんてなにもないさ。
でも、でもな。何でも自分のせいにする癖のあるお前が心配だったんだよ」


彼はあの頃のように屈強な笑顔で俺に笑いかける。
それがこいつはこいつのままだと伝えてくれていた。


「光が眩しすぎて目を瞑って歩いていたら綺麗すぎる思い出に躓いて
立ち上がれずにいるんなら、忘れるな。あの日を。

俺が此処に生きていた証を」

「夜明けが来るのが怖くて夜の暗闇を彷徨っているお前らだけど、
お前らには朝日の方が似合うと思うんだ」

「迷子のような昨日から、明日は何か変わっていて欲しい。」

「お前らなら出来る」


彼は俺の手を冷たくなってしまった手で優しく握りしめながら
一語ずつ丁寧に言葉を紡ぐ。


「此処で逃げ出すような奴なら、俺はお前らをこんなに信頼していなかった。
俺の友人はそんなに弱い奴らじゃないはずだ。」


彼の綺麗な瞳に堪えた光が今にも溢れだそうに揺れる。
そんな彼の瞳を見ているともっと泣けてきちゃいそうで、気づかないふりをした。


「例えお前を知る奴がこの世界から居なくなっても、俺はお前を覚えてる。
お前が居なくなったとしても、俺はいつまでもお前の親友だぜ」


それは真実だった。


「もう、前を向けるか?」

彼の言葉に上手く答えられるような言葉が見つからず、
でも必死に強く首を縦に振った。


「そうか」


ありがとう。お前が居なくてももう大丈夫だ。

今度こそ、本当にさようなら。


彼は一度俺に向かって笑いかけると一瞬寂しそうに目を細めて、
目を瞑った。


「じゃあな、**。また来世」


それだけ言うと彼はフェンスを飛び越えて、空に溶けていった。

目の前にはもう誰もいない。
いつものビルの屋上に戻っている。

ただ、目の前に広がる都会の景色はいつもよりも綺麗に見えた。


手の中にまだ彼の温度を感じながら、俺は深く深呼吸した。



なあ、お前が死んで暫く経って漸く解ったよ。

俺はお前に生かされていた。



まだ彼の熱に泣きそうになるけど、まだ独りで生きていくには心もとないけど。
俺にはまだ失いたくない仲間がいる。

ただそれだけを道標にして生きていく俺は弱虫かもしれないけど、
それでもまあ、生きていくか。



「ありがとう…またな」


誰もいなくなった冷たい屋上に独り呟いて、ドアに手をかけた。

明日を願ったお前の分まで、生きてやるんだから
来世でまた会えたらまた親友だと言ってくれ



前を向いて歩き出した俺に吹く風の裏側、何処かで彼の笑い声が聞こえた気がした。






16/02/16 11:12更新 / ユキ

■作者メッセージ
「俺達の最終論」を消してしまったので
すこし修正加筆をして再投稿させて頂きました。

大切な人の死は、綺麗事じゃ解決できないのです。

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