いっしょに生きよう - 死にたいあなたへ
嘆き川柳 お絵かき掲示板
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僕のパパは誘拐犯
突然だけど、僕のパパは誘拐犯だ。
実際僕を公園で巧みな話術でおびき寄せ、隙を狙って誘拐した。
当時の僕はまだ6歳だったから何も分からなかったけど、世間としてはそれは大惨事で、周囲の警戒を強める事件であった。
でも15歳になった今だから言える。

僕はパパに感謝してる。




真夏だった。
照りつける太陽、次第に高くなってゆく室温、どんどんぼやけてくる視界…当時5歳の僕はそんな部屋に一人寝そべっていた。
どうしてこんな所にいるのか、どうして視界がぼやけていくのか、5歳の男の子が理解できるはずもなく、薄れてゆく意識の中で5歳の僕は目を閉じた。

なんだっけ、………ぼくのなまえはなんだっけ…

くるしいな……………………まま…











「………へいくん、うへいくん、…………秀平くん!!」
目を開くと最初に視界に入ってきたのは白い天井だった。次に見えたのは白い白衣を着た男の人で、周りには看護婦さんが沢山いた。
なんだかサイレンの音が聞こえて、体が揺れるものだから、これはきっと救急車に乗っているんだと思った。
当時の僕は本を読むのが好きで、車の種類には詳しかったのだ。
「………ママは…?」
「…っ、秀平くん………」
周りの人たちは何だか悲しいような顔をしていて、僕はそれを見るのが嫌だったからとりあえずママのことは話さないことにしようと思った。
体が重いし吐き気がする。
「………………………」
僕の意識はそこで一旦途絶えた。


僕のママはとにかく飽きっぽくて、自分が始めたことであろうがなんであろうが飽きたらぽいっと捨ててしまう人だった。
ママは僕が3歳の時に離婚して、生活保護を受けながら僕と暮らしていたけれど、やっぱり途中で『飽きて』しまったようで、炎天下の部屋の中僕を置いて一人逃げてしまった。
ママにとって僕はそんなものだったのかと思ったけど、今となってはママの顔なんかもう思い出せないし、ママも大して気にしていないと思う。
世間一般では僕のことを皆可哀想だとか言うけれど、僕はそんなことはなかった。

ママの判決が決まったあと、僕は親戚のおばさんの家に住むことになった。
窮屈な家だったし、学校もさほど楽しくはなかった。
次第に僕は学校に行かなくなり、お昼は大体近くの公園で遊ぶ、というのが日課になっていた。

そんな時だ、『パパ』に会ったのは。

男の人は最初ブランコで遊んでる僕に近くのベンチから話しかけてきた。

「上手だね、誰に教えてもらったの?」
「……ママだよ」
「そうか、君のママはさぞかし優しい人なんだね」
「…違うよ、僕のママは悪い人だよ」
「…………え?…そうか、おじさんと同じだな」
「…?」
「名前はなんていうの?」
「…………秀平だよ」
「じゃあ秀平くん、あっちにもっと大きなブランコがあるよ、行ってみない?」
「…………行ってみたい」

嘘だ。この頃の僕はこの程度の善悪なんて理解できるくらい賢かった。
…でもついて行ったのは、…………きっと僕自身もこんな生活に飽き飽きしていたんだと思う。早くこんな生活から抜け出して、どこか遠くへ行きたい、そう思っていた。

男の人は案の定公園なんかには行かず、僕はとても長い距離を歩かされた。景色はどんどん知らない土地へと変わっていき、僕は夢を見ているようだった。
「…おじさん、僕疲れたよ、もう歩けないよ」
ぶたれたりしたらどうしようと思ったけど、おじさんは優しく僕をだっこしてくれた。
「…………そうか、あともう少しだからな。」
「…………」
それがとても心地よくて、今までに味わった事のない優しさで、僕は不覚にも泣いてしまった。おじさんは歩きながら色んな話をしてくれた。
自分は昔結婚していたけれど、奥さんに逃げられたとか、宝くじに当選したと思ったらそれは去年の宝くじで意味が無かったとか、正直僕にとってはどうでもいいし、分からない話が多かったけど、今まで大人が話してくれた中で一番面白かった。

「……さて、着いたぞ」
気が付いて見上げてみると、そこには夜の闇に佇む一つのおんぼろアパートがあった。二階建てで、部屋へと続く階段は錆びていて今にも壊れそうだ。
おじさんは階段を上がり自分の部屋の前で僕を下ろすと、ポケットから小さな鍵を二つ取り出した。そして片方を僕に渡すとこう言った。
「今日からお前は俺とここで暮らすんだ、……分かるな?」
もし普通の子だったら、帰りたいとか言って喚き散らすだろう。だけど僕はそんなこと微塵も思っていなかったし、何よりおじさんが大好きになっていたから、素直に鍵を受け取りこくりと頷いた。
それから僕とおじさんの奇妙な生活が始まった。

おじさんは僕にママ以上に優しくしてくれた。
学校は近くの小学校に通い、暇な時は迎えに来てくれた。
不思議だ、前の学校は全然楽しく無かったのに、おじさんと住み始めてから学校が急に楽しくなった。
おじさんはサラリーマンだった。休みの日はレンタカーに乗って海に連れて行ってくれた。貝殻を沢山拾って楽しかった。

一度こう言って見たことがあった。
「おじさんってパパみたいだね」
おじさんはパソコンを操作しながら僕を見て目を見開いた。
何か悪いことを言ったかな、と思っていたら、おじさんが笑顔で僕の頭を撫でてくれた。
「どうせなら、パパって呼んでもいいんだぞ?」
僕は誰かをパパと呼んだ記憶が無かったから、とても嬉しかった。
それから僕はおじさんを『パパ』と呼ぶようになった。
「秀平くん、いいお父さんね」
学校の先生にもそういってもらえて、僕はパパに出会えて良かったと思った。


「パパ、行ってきます」
「ん、行ってこい秀平、今晩はハンバーグだぞー!」
「やった!」


そのまま10年の時が過ぎた。


…………………………………………………

「…酒井秀平くんだね?」

中三の夏、下校中に僕は警察手帳を掲げた警官に声をかけられた。
その時の僕はパパと暮らすのが当然になっていて、言ってしまえばママのこととか親戚のおばさんのこととか忘れてしまっていて、どうして声をかけられたのか分からなかった。
「…僕は桐谷ですけど………」
「もとの名前は酒井だろう?ちょっとあっちで話を聞きたいんだけどいいかな?」
「…はあ」

「…………誘拐?…僕の父が?」










「桐谷達彦、誘拐罪で現行犯逮捕する」
サイレンの音が聞こえる。
僕はただ部屋の中で呆然と自分の父親が手錠をはめられる姿を見ていた。
ガチャンと金属音が鳴り響く。

待って、全然分からない。理解出来ない。
どうして僕の父親が逮捕されているんだろう、親父が何かしたのか?
蝉の合唱と野次馬のざわめきの中、僕は呟いた。

「………………親父」

桐谷達彦は振り返らずドアの目の前で立ち止まった。
「…ふざけんなよ、お前ら、親父をどうするつもりだよ、なあ!?」
「……秀平」
「離せよ!俺の親父に触んじゃねえ!!」


「「秀平!!!!!!」」

初めて見た。11年間一緒に過ごしてきたけれど、親父がこんなに声を張り上げたのは初めてだった。

「……なんだよ…あんたも説明しろよな…

……勝手にふらっと僕の目の前に現れてさあ、今度はいなくなるのかよ!もう嫌なんだよ!!家族が目の前から消えるのは………………」

全て本音だった。言い切った後、目から大量の涙がこぼれ落ちた。

「…刑事さん、少しだけ時間を貰えますか」
「………親父…?」



それから親父は全て話してくれた。
僕が母親に炎天下の下家に置き去りにされた日、集まった野次馬の中に自分が居たこと、親戚に引き取られてから学校に行かず公園で遊んでいたのをずっと見ていたこと、僕に笑顔になって欲しいとお祈りする為に教会に通っていたこと……
そして悩んだ末に僕を誘拐し、親子になろうと考えついたこと。
全てを知った時、僕はその場に崩れ落ち泣いた。
親父は僕に「…すまない」と呟いた。
僕は謝って欲しくなくて、益々泣いてしまった。
照りつける太陽、次第に高くなってゆく室温、どんどんぼやけてくる視界…あの日と同じ真夏の日だった。






それから僕はまた親戚に引き取られた。
おばさんは泣いて僕を抱きしめてくれたけど、全く僕は嬉しくなかったし、親父に会いたい、それだけを考える毎日を過ごしていた。








……………………………………………






今日は親父の懲役が終わる日だ。
僕は二十歳になっていた。
暑い日で、ファミレスには冷房が効いており、僕の胸は高揚していた。

…………もう直ぐ会える、もう直ぐ…


カランコロン


扉が開く。
音の主を見た瞬間、僕は立ち上がり叫んでいた。

































「………パパ!」












14/08/02 00:51更新 / 紅葉

■作者メッセージ
昨日滅多にない部活のため、久しぶりに長い時間外にいました。
やっぱり外に出るのは大切ですね。
今日もガリガリ君片手に頑張ります。

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