Plorogue (改) ( No.1 ) |
- 日時: 2015/09/30 21:35 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 祝日の今日の東京は、いつもより人混みと騒音で溢れている。
電車の音、ショッピングモールのディスプレイから流れる音楽。 この日には、スーツを着ている者は誰一人見かけないのである。 この大都市の中には、国内最大のディスプレイモニターがあり、 その日の日付、曜日、天気やニュース、占い等のいろんな情報を 提供する、この国を代表するシンボルの一つとなっている。 このディスプレイは正午になるとアナウンスが流れる仕組みだ。 この日もそのアナウンスは流れた。
<6月24日 木曜日 正午をお知らせします>
辺りは暗闇を包む。
この星に太陽は、存在しない。
これは、三十年前の劣悪な環境にいる者達の、抵抗とその最期の記録である。
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1-1 Diskrimination(改) ( No.2 ) |
- 日時: 2015/09/30 23:06 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 2075年、この国では上空から写真を取ると、貧富の差が映ると
言われている。壁一枚隔て、高級住宅街と腐食しかけのベヤニ板 で建てられた平屋の映る写真は、本当に民主主義国家なのかと、 見ると疑う程の物である。しかし、そういった状況に対するデモ や抗議は一切行われていない。 それは、首相による事実上の独裁政権が長年続いているためだ。 当時新参の党の国民党の党首、柳の異例の首相就任から始まった それは、短期間で日本を事実上の独裁国家に作り替えていった。 税率の底上げ、大手企業社員の優遇の他に、町工場や中小企業を 潰した為、放浪者が激増した。その中には子供も少なくなかった。 ただ、そういった者たちが次々死んでいくという事はなかった。 情けなのか、嘲りなのか、最低限の食料は配布され、重篤の場合 は診察を受けることが出来たためだ。 富豪層の人間は放浪者を嘲け笑い富豪層による事件も絶えないが、 国が動く事はないのだ。 これに抗議したものは次々と牢屋行き、その場で銃殺されること もあるのだから、反抗する事もできない。
首相就任からわずか3年の間にこの国は差別主義の独裁国家と成り 果てたのである。
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No.0に対する返信 ( No.3 ) |
- 日時: 2015/09/30 23:29 (spmode)
- 名前: 放置提督
- > 私の自作小説です。
> 暖かい目で見ていただけると嬉しいです。 > > 見ていただく前に少しルールを。 > > まずこれは小説なので、スムーズな閲覧環境を整えるために、ここでの返信は控えて下さい。 > アドバイス等がありましたら私のスレ > ・・・? にお願いします。 > > 更新は基本は一日更新、2.3本目安ですが不定期になることもあります。 > > 荒らし、なりすましはこないで下さい。 > > レスタイトルに(改)が付いているものは、内容を補正しています。 > > 随時更新欄 > 現時点の登場人物 最終更新:9/30 > > 柳:国民党初代党首。 > > 備考:特にありません。 こういう所に書くより占いツクールとの小説投稿サイトに投稿した方が見る人多いと思うよ。登録とかが面倒ていう感じだったらスマソ
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1-2 Diskrimination ( No.4 ) |
- 日時: 2015/09/30 23:57 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 放浪者は公共設備を使用できないため、子供達は学校に行くこと
はできない。そのため、その子供達の学力は著しく低いが、時間 はたくさんあった為、近所の友達と遊ぶことがほとんどだった。 「山本翔平」という男の子もその中の一人だった。 翔平の父親は中小企業の社長であったが、柳の政策により会社は 倒産し、家族全員放浪者となった。翔平が五歳の時の事である。 放浪者の集まるスラムで生活する中で、翔平はある二人と出会う。 「坂口龍太」「法川美玲」の二人だ。 ちょうど翔平と同じ時期にスラムにやってきた龍太は、翔平の家 と家が近かったため、自然と関係が深まっていた。家に挨拶をし に来た時にすでに仲良くなり、それから二人で遊ぶ事も多くなっ ていった。いつの間にか二人は親友となっていた。
美玲は、二人が七歳の時にやってきた黒髪ロングの少女で、翔平 の家の隣に越して来た子である。最初は人見知りがちであったが 翔平と龍太からの猛烈な遊びの誘いの中から、次第に仲良くなっ ていった。 8歳の頃には、三人はずっと一緒に居る幼なじみとなっていた。
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1-3 Diskrimination(改) ( No.5 ) |
- 日時: 2015/10/01 18:18 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 三人が遊ぶところは決まって富豪層と貧困層を隔てる壁の近くに
ある空き地だった。他の子供たちはスラムの広場で遊ぶのだが、 美玲が遊んで汚れた姿を見られるのが恥ずかしいという理由で、 あまり子供が来ない空き地で遊んでいたのだ。翔平と龍太はその 広場にあちらこちらに落ちている廃棄物で自作の鉄棒やブランコ、 すべり台などを両親に手伝って貰いながら作り、そのうち空き地 は三人だけの特別な公園となっていた。三人は毎日のようにその 空き地で遊んでいた。
しかし、三人が10歳の時に突然悲劇はやってきた。
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1-4 Diskrimination(改) ( No.6 ) |
- 日時: 2015/10/01 23:04 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- その日も朝方から三人で公園で遊び、帰ってきたのは暗くなって
来た頃。また明日も遊ぶ約束をして三人は別れたのだが、 その約束は守られることはなかった。 次の日、翔平は二人を連れいつものように朝飯のおにぎりを食べ ながら歩いていると、空き地の方に人だかりがあるのを見つけた。 いつもなら人気もないのに何故?そう思った三人が駆け寄ると、 三人は驚き、開いた口が塞がらなかった。 空き地の近くにある壁が、直径4メートル程、崩れていたのだ。 そして、そばにあったブランコは支えを失って倒れていた。 崩れた壁の部分はブランコを支えるために、釘を打ち込んでいた 場所であったことを思い出すのもそう時間はかからなかった。 その壁は他の壁と比べ脆かった。だからそこに釘を打ったのだ。 壁の向こうはちょうど高級住宅街の広場があるようで、そこから 警察官やパトカーが集まり周辺の捜査していた。中には貧困層の 住民に事情聴取している警察官もいた。 三人は恐ろしくなりその場をすぐに立ち去ったが、目撃者の証言 等から犯人が特定されるのも時間の問題だった。 昼すぎに三人と三人の家族は拘束され、留置所に送られた。
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1-5 Diskrimination ( No.7 ) |
- 日時: 2015/10/02 17:11 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 留置所には拘束の約一時間後に到着した。そこは都市のはずれに
ある留置所だったが、人気のある所だったため、三人達が乗った 車は、市民に不審な目を向けられながら留置所に入っていった。 三人が犯したのは、[貧困民不法侵入未遂罪]であった。 この罪は柳が首相就任後に新しく作られたもので、これを犯した 放浪者には懲役5年が課せられる。三人とその家族は壁を意図的に 壊し、侵入しようとした可能性があるということにより、それが 適用されたのだ。もちろん放浪者が何を言っても、検察官は耳を 貸さない。犯罪を犯した放浪者は、危険物質と認定され、人権が 厳しく制限されるという法律を、同時に柳が作ったからだ。 翔平達は拷問まがいな自白の強要を迫られ、諦めてしまった。 その後は刑務所に即刻送られるのだが、この罪にはある特殊な刑 法があった。それは、 「罪を犯した者の中に子供がいる場合には、両親が刑を肩代わり する義務を負う」 というものだった。 柳の作った放浪者に対する刑法にはすべてこれが補足されていた のだ。弄ばれているかのように、親と子を引き離す刑法をつくる のも、柳の政策の一つだった。
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1-6 Diskrimination ( No.8 ) |
- 日時: 2015/10/02 21:44 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 肉親との別れ。まだ10歳の子供にとってそれはとても辛い出来事
だった。三人はできる限りの抵抗をしたが力及ばず、留置所から 連れてこられた車に入れられ一時間後、三人の家にもどされた。 夏の終わり、やけに夜が涼しかった日だった。 三人は三日三晩泣き続け決心し、自分達で頑張って生き抜く事 を決めた。三人はその中で一番大きかった翔平の家で共同生活を 始め、家事を分担して生活した。少ない食材で食事をとる方法、 効率良くできる洗濯の仕方など、すべて自分達のせいで牢に入れ られた両親達へのせめてもの親孝行と、他人に頼らない自立した 生活を心がけた。その生活は三人にとってとても過酷ではあった が、弱音は吐かず、むしろ楽しんでいた。毎年やってくるお正月 や七夕、クリスマスは、プレゼントはないが貯めた少ない食材で ご馳走を作り、賑やかな日々を送っていった。 誕生日は、プレゼントを二人で作って送る、一番楽しい日だった。 ーお母さん達が帰ってきたらみんなでお祝いしようー
三人がそう決心して時が過ぎた、翔平の19歳の誕生日が、
すべてが終わる始まりの日だった。
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2-1 Irregularity ( No.9 ) |
- 日時: 2015/10/02 23:57 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「翔くん誕生日おめでとー!」
夜中の平家に歓声が響く。 「おお、サンキュー」 「なんだよそのシケた返事、せっかくの誕生日なんだからハジけ よーぜ!」 「そうだよ翔くん、いっぱい料理もつくったんだから楽しんでよ」 食卓には数は少ないが唐揚げやフライドチキン、手作りのケーキ が所狭しと並んでいた。 翔平は誕生日が来る度に、美玲の料理の腕が着実に上がっている ことに驚かされている。 「ほらほら、さっさと座って食べちゃってよ、龍太が唐揚げ全部 食べちゃうよ」 龍太はすでに唐揚げを3分の1ほど食べていた。 「ああ、そうするわ、いただきまーす」
美玲が料理の後片づけをして部屋に戻ると、二人はケーキ以外の 料理を全部食べてしまっていた。 「うわ・・・二人とも食べるの早くない?というか私の分は?」 「大丈夫ちゃんと残してあるから。ケーキはみんなで食べようぜ」 「さすがに食べ過ぎたか・・・あー腹いっぱいだわ」 翔平の誕生日のはずが龍太が一番食べていたため、龍太の腹は、 一目でわかるほど膨らんでいたが、ケーキを食べる為のフォーク を片手に握りしめながら床に寝転がっていた。 「わかったわ、ナイフ持ってくるね。あとお皿も」
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2-2 Irregularity ( No.10 ) |
- 日時: 2015/10/03 09:42 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- そう言い美玲は、ナイフとお皿を持ってくると、手慣れた様子で
ケーキを切り分けた。 「おい、なんか俺のケーキ少なくねぇか?」 「当たり前でしょ、そんなにたくさん食べたら龍太絶対吐いちゃ うじゃない、それに今日の主役は翔くんなんだからね」 翔平のケーキは二人のと比べるとちょっとだけ大きかった。 「まぁ、いいか。今日は翔の誕生日、翔がいっぱい食べないとな」 「お前が言うな」 「ははは・・・なんでもいいから早く食おうぜ」 ケーキはクルミを2枚のスポンジで包みクリームを塗ってイチゴ を乗せたシンプルなものだったが、ケーキ自体食べることのほと んどないこのスラムからしてみれば、とんでもないご馳走だとと いうことは間違いなかった。 「じゃあ、いただきまーす」 「美味しいね、ケーキ」 「あぁ、いちご落ちちまったわ」 「俺が食べる」パクッ 「お、おいちょっとふざけんなよ」 「いいだろ、ケーキそっちの方が大きいんだからこのぐらいよ、 ケチくせぇなぁ」 「はぁ・・・本当呆れちゃう」
ケーキを食べ終わった後は、いよいよ翔平にプレゼントを渡す。 龍太は重い腰を上げ、プレゼントを持ってきた。
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2-3 Irregularity ( No.11 ) |
- 日時: 2015/10/03 11:53 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「なんか、やけに大きくね?それ」
龍太が持ってきたプレゼントは、直径が約30センチはある正方形 の木箱だった。中身は軽そうだが・・・ 「まあな、一ヶ月前から準備してたんだぞ」 「お、もう龍太持って来たんだ」 なんだか二人ともニヤついている。去年の誕生日は、鉄くず集め で貯めたお金でブロンズのブレスレットを買ってくれたが、 今年もアクセサリーなのだろうか・・・ 翔平は二人から木箱を受け取った。 「じゃあ、開けてみて」 美玲に促され木箱を開けると、そこにはおもちゃの宝箱があった。 「え?なにこれ」 宝箱はプラスチックと木で出来ており、鍵穴が開いている。鍵は 掛かっているようで、宝箱を開けることは出来なかった。 「これ鍵掛けてあるから開けらんねえよ」 「これの事?」 美玲は手に持っている鉄の鍵を見せびらかした。 何のつもりだ?そう翔平が思うと二人はいきなり外に出た。 「私たちを捕まえたらこの鍵あげるよ」 「俺今腹いっぱいだけどお前には捕まえられないぜ」 なんだそういうことか。捕まえればいいんだな、一人は女、も う片方は豚みたいな腹の男。楽勝だ。 俺は一瞬微笑むと、外に飛び出した。
その瞬間、轟音と地震が起こった
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2-4 Irregularity(改) ( No.12 ) |
- 日時: 2015/10/03 15:00 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「うわッ!なんだよこれ!」
その声さえかき消すほどの轟音。 数十秒間音が響き、轟音が収まった後、熱気が押し寄せて来た。 「二人とも、あ、あれ見て・・・」 美玲の指した方向で火山が噴火していたのだ。しかし、その規模 は異常だった。頂上や中腹の火口のみならず、山に大きな亀裂が 入り、そこから湯水のように溶岩が溢れだしていたのだ。溶岩流 が山を流れ地上に押し寄せてくるのもはっきりと見えていた。 だが、ここは噴火した山から何キロも離れたところなのだから 、こちらまで溶岩が来ることはさすがにないだろう、と翔平は 考えていたが、龍太の一言でそれが大きな間違いだということに 気がついた。 「お、おい、あの山からつながってる川がここの近くにあったよ な、そこから溶岩が流れてきたり・・・しないか?」 龍太の不安は的中した。富豪層内の警報放送が流れ、その内容は、 [溶岩流が河川に沿って押し寄せています、ただちに避難してく ださい。繰り返します、溶岩流が河川に沿って押し寄せています] 富豪層もスラムもパニック状態に陥っていた。翔平は冷静に判断 して、腰を抜かしている二人に落ち着くように求めた。
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2-5 Irregularity ( No.13 ) |
- 日時: 2015/10/03 15:38 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「ちょっとお前ら落ち着け大丈夫だ、高い所に避難すりゃ溶岩は
流れてこない、早く行こう」 「わ、わかった、早く行こう」「そう、そうね、落ち着かなきゃ」 ようやく落ち着きを取り戻した二人と翔平はスラムの中にある小 高い丘を目指して走っていった。途中、他の避難者もそこについ ていくことになり、ペースは落ちたが、なんとか溶岩流がスラム に到達する前に、避難することができた。 その丘は、貧困民に配給する食料の倉庫があった。普段は警備員 が見張っているが、この緊急事態で退避したらしく、倉庫の鍵は 開いたままだった。避難者はその中で生活する事になりそうだ。
一通り落ち着き、時間が出来た翔平は丘から河川を見下ろした。 溶岩流はすでにスラムの一部に流れ込んでいた。ここのスラムは 盆地になっているため、そのうちに溶岩ですべて埋もれてしまう だろう。 「ひ、ひどい・・・私達の家が・・・」 美玲はこの有り様をみて泣いていた。十何年間も住んでいた所の あまりにも酷い最期を目にしたのだから無理もない。 それはそうと、富豪層の連中はどうしたのだろうか。 今では放送も何も聞こえてきていないのだが・・・
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2-6 Irregularity(改) ( No.14 ) |
- 日時: 2015/10/03 16:36 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 突然の火山の噴火、押し寄せてくる溶岩流から逃げてきた翔平達
を含む避難民は食料倉庫の中で一晩を過ごした。大半は火山から の熱風や恐怖、緊張からか眠れない者が多かったが、朝を迎える と、この事態を受け入れる覚悟が出来たようだ。 火山は未だに活動が非常に活発で、火山灰や火山岩塊があちら こちらに降り注いでいる。 スラムは、すでに半分が溶岩に飲まれていた。溶岩がすべてを飲 み込むまでもう時間の問題だ。 二人はまだ倉庫で休んでいる。美玲はかなり憔悴しているから、 しばらく一人しておいたほうが良さそうだ。 翔平がそんな事を考えながら外を観察していると、かすかにプロ ペラの音が聞こえてきた。翔平があたりを見渡すと、富豪層の方 から、ヘリコプターとチヌークヘリがやってきているのが見えた。 倉庫からも、その音を聞きつけた避難民がぞくぞくと出てきた。 丘の端に着地した航空機からでてきたのは軍人達だった。軍人達 は、避難民にチヌークヘリに乗るように指示した。 翔平は二人を倉庫から連れ出した。 「救出用のヘリが来たぞ、早くしろ」 「うーん、わ、分かった」 避難者を乗せた航空機は、仮設避難所に進路を向け出発した。
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2-7 Irregularity ( No.15 ) |
- 日時: 2015/10/03 23:39 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- チヌークの中には、翔平達を含め三十人ほど避難民が乗っていた
が、会話は一つもなく、ピリピリとした空気が張りつめていた。 隣に座っている美玲は虚ろな目で一点を見つめていた。昨日まで はあんなに元気だったのに・・・ プレゼントも家に置いてきてしまい、結局開けることも無かった。 ここまで誕生日が憎かったことが今までにあっただろうか。そん なことを考えているうちに、チヌークは目的地に到着した。次々 と降りてゆく避難民の後、寝ていた龍太を起こし、美玲を立たせ 翔平はチヌークを降りた。 周りを見た瞬間、身体が固まった。 「嘘だろ・・・ここ刑務所じゃねえか」 そこは、もう使用されていないであろう、古びた刑務所だった。 無機質な色の建物、高く延ばされた有刺鉄線は、まるで自分達が 囚人に感じられるほどの雰囲気を醸し出していた。 そこに、軍人の脅しめいた声が響く。 「今日からおまえ達はしばらくここで生活してもらう」
おいおい・・・本当に囚人みたいじゃねえか。
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2-8 Irregularity ( No.16 ) |
- 日時: 2015/10/06 03:56 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「今日からおまえ達はしばらくここで生活してもらう」
街外れの刑務所にその声が反射する。 「ここは今は使用していない刑務所だ。寝る所は牢屋になるが、 カーテンを希望者に配布するから名乗り出るように」 軍人がカーテンを希望者に配布し終わったあと、皆外にあるヘリ に向かうため外に歩き始めた。そして、刑務所の門から最後の 一人が出ていくと、軍人は門の鍵を閉めた。 避難者は驚き、外の軍人達に詰めかけて開けるように求めたが、 「ここは外れにあるが立派な富豪層のエリアなのだ、貧困民であ るお前らが自由に行き来できる訳がないだろう」 軍人はそう言いヘリへ乗り込んでいった。 災害時にもその差別は無くならない事を身を持って感じた瞬間だ った。
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2-9 Irregularity ( No.17 ) |
- 日時: 2015/10/06 23:21 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 三人は刑務所の三階の端にある牢屋をとって暮らすことにした。
牢屋の中は簡易ベットが三つ、机と椅子、トイレという寂しい 部屋だったが、そこで何とか暮らせるように初日に掃除をして、 綺麗にすることができた。食事は前と同じように配給で回る。 「この部屋狭すぎだ、床も石畳だしつっぷして寝れねえだろ」 龍太はこんな所に連れてこられても基本の生活スタイルは変わら なかった。毎日毎日食い物食っては寝るを繰り返している。 「いつも食べては寝てって、まるでブタみたいね」 美玲はまだすこし疲れていそうだが、前よりは元気を取り戻して いた。 いつもの三人の雰囲気になってきてホッとしていた。
それから一ヶ月後、昼間ヘリの音が聞こえ、翔平が格子から目を やると、それは避難民たちが運ばれたチヌークヘリの音だった。 そこから数人の軍人が現われ、刑務棟の中に入っていった。
そして数分後、三人は手錠をはめられてヘリに収容された。 軍人の手には三枚の書類があった。その紙によって三人はここに いる。
"徴集書"
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2-10 Irregularity(改) ( No.18 ) |
- 日時: 2015/10/07 21:54 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「何処に連れてくんだよ、教えろ!」
チヌークの中に龍太の叫び声が響きわたる。 三人は昼飯を食べていた最中に拘束された。何がどうなっている のか見当もつかないでいた。軍人達は龍太の訴えに耳を貸さない まま二時間以上が経過し、日が傾き始めていた頃、一人の軍人が 口を開いた。 「後ろの窓から下を見ろ」 三人は不思議におもいながら後ろを向き窓を覗いた。 「えっ!?」 「な、なんだよ・・・これ」 まさに地獄とも言えるその環境を見た三人はあぜんとした。 前の火山だろうか、溶岩が山からとめどなく溢れ、地面に開いた けた外れの大きさの亀裂に流れ込んでいた。 植物や水はすべて枯れ、人も見あたらない。 「三人でこの危機的状況から地球を助ける任務を遂行してもらう」 「「「は?」」」 三人にその宣告がなされた瞬間チヌークは謎の建物のヘリポート に着陸した。三人はチヌークから降ろされて建物の中へ連れてい かれた。 翔平は建物の看板を見ていた。そこに書かれた物を見て、翔平は 首を傾げた。
[リフォーミング・アース日本支部]
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2-11 Irregularity(改) ( No.19 ) |
- 日時: 2015/10/09 17:31 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 建物の中は、白黒を基調とした無機質な雰囲気を漂わせていた。
すれちがう人々は白衣を着ていて、少し薬臭かったから、ここは 研究所なのだろうか・・・ そう考えていると先導していた軍人が歩を止め、口を開いた。 「着いたぞ、中に入れ」 軍人は樫の木で出来たドアに手を向けた。翔平は、そのドアノブ に触れ、ゆっくりと開いた。 「お、やあ、よくきたね君たち」 その部屋には5メートルはあるであろう本棚と、馬のなめし革で 作られたソファが置いてあり、前に置いてある机には茶菓子が あった。そして部屋の中央にとても大きいデスク、整理整頓され たデスクの向こう側に男がいた。 「あんた誰だ、俺らを早く返せ!」 「おお、威勢がいいねえ、これならよく働いてくれそうだ」 龍太が怒声を散らしても男は、澄まし顔で流した。 「君たちには、これからある任務についてもらうんだ」 男の口角が少し上がった。
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3-1 Ordeal(改) ( No.20 ) |
- 日時: 2015/10/11 00:21 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 任務?
「僕はここの施設長の前田友賀という者だ、よろしく」 前田は笑みを浮かべていた。 「任務って、何・・・?」 美玲が怯えた口調で話した。 「ん、ああ、まだ詳しく説明していなかったようだね、君たちに は、この星を守る為の重要な任務をしてもらうんだ」 「え・・・」 また星を救うというその発言に三人は驚きを隠せなかった。 「まあ無理もないか、まだ話を飲み込めていないんだろう、さあ 、立ちっぱなしなのもアレだから、とりあえず座って話そうか、 君たち、腕のを外してあげて」 「はっ」 軍人達は短い返事の後、三人の手首の手錠を外した。三人は前田 が指したソファに座った。 「さてと、とりあえず今は説明だな。君たち、先日の火山の噴火 のことは知っているかい?」 「知っているも何も、あの噴火のせいで、俺達は刑務所に居たん じゃないか」 翔平は責めた口調で話した。 「はは、そうだったね、ということは噴火している火山も見たと いうことだね?何かおかしい事があったろう」 翔平の頭に異常な火山の噴火の情景がよぎる。 「たしかにあったけど・・・それがどうかしたんだよ」 「いやー、それがまずいことになったんだよ」 まずいこと?
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3-2 Ordeal(改) ( No.21 ) |
- 日時: 2015/10/11 02:05 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「実を言うと、アレは人工的な噴火だったんだ」
「は?」 前田はそう言うとデスクから一つのファイルを持って来て、中に 挟まれているレポートの一枚を机に置いた。 「この実験レポートを見て欲しい。これは、[溶岩の燃焼による エネルギー無限供給システム]を作るための実験のレポートなん だけど、これの最終実験が失敗してしまってね、この有り様さ。 それにこの実験は日本で行われてたわけではないんだ。まったく 無関係の日本にもこんな被害が来たという事は・・・ もう分かるだろう?今地球全体が崩壊の危機に直面しているんだ。 だから貧困民の中から、この危機に対処してもらう人を選ぶこと になって、それが君達なんだ」 「ちょ、ちょっと待ってくれ、何?地球が崩壊って」 翔平達はあまりに急なその宣告にあぜんとしていた。 「だから要は、地球が今すごく危ないから君たちに助けて貰おう ってことだよ」 三人は冷静さを取り戻し、かつ恐怖にうちふるえていた。 地球が、崩壊する・・? だが翔平はそれよりも疑問に思っていることがあった。 「おい、ならなんで俺達なんだよ、貧困民だって他にもいただろ う」 「あぁそれはね、君たちが天涯孤独の身だからだよ」
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3-3 Ordeal ( No.22 ) |
- 日時: 2015/10/11 16:41 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「天涯孤独って、俺達には母さん達がいる!」
翔平は怒りを込めて反論した。しかし前田は平然としている。 「そのお母さん達は、捕まっていたんじゃあないのかい?」 「ああ、そうだよ、それがどうかしたんだ」 微かに前田の眉が上がった。 「君たちの両親は、一昨日で全員死んでしまったんだよ」 その瞬間、三人の目から輝きが消えた。そして一番最初に憎悪が 目に映ったのは龍太だった。 「何しれっと言ってんだよボケが!」 龍太は前田に掴み掛かろうとしたが、背後に居た軍人達によって 引き戻された。 「別に僕たちが殺した訳じゃないし怒らないでくれよ」 前田は冗談めかしていった。 「まあ、急にそんなこと言われても受け入れられないよね、今日 の所は、用意している部屋で休んでてくれ」 軍人達は三人を部屋に連れていった。
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3-4 Ordeal ( No.23 ) |
- 日時: 2015/10/12 23:46 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 突然の肉親の死の宣告。翔平は、用意されていた部屋のベットに
へたれ込んでいた。 ー母さんたちが、死んだー
気がつくとすでに日が昇っていた、寝てしまっていたようだ。 一晩寝たら心が少し落ち着いた様だ。 ベットから這い出ようとしているとドアからノックがした。 「目が覚めたか、起床しだいに朝食がくる。食い終わったらまた 施設長の元に謁見しにいくから準備するように」 昨日の軍人の声だった。翔平は、寝起きの鈍い返事をして朝食が 来るまでに支度を済ませた。支度が済んだ翔平が寝室に戻ると、 またノックがした。 「山本翔平様、朝食をお持ちしました」 さ、様? 翔平は不思議に思いながらドアを開け、目の前にいたメイドさん から朝食を受け取った。ロールパンにコブサラダ、コーンポター ジュにマスカットティーという朝から豪華な食事に驚き、そして 富豪層と貧困層の差を見せつけられたような気がした翔平は複雑 な気持ちだった。
翔平が朝食を済ませ、片づけ終わると、軍人が部屋に入って来て 時間だと言った。 翔平は前田の部屋に向かった。
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3-5 Ordeal ( No.24 ) |
- 日時: 2015/10/13 00:10 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 前田の部屋に向かう途中に、二人と合流した。翔平は二人に少し
違和感を感じた。両親が死んだというのに嘆いている様子がまっ たく見えないのだ。どうしたのだろうか・・・ 前田の部屋に着いた三人はノックをして、部屋の中に入った。 「おはようさん、昨日は良く眠れたかい?」 「いいから昨日の話の続きを話せ」 龍太が威圧していた。 「おー怖い怖い、いいだろう、話の続きをしようか。昨日も繰り 返し言ったんだが、任務を遂行してもらう人を貧困民から探そう ということはもう知ってるよね?ちょうどそのタイミングで君達 の親が死んでしまったから、丁度いいと思った本部のお偉いさん 達が君たちを召集したってわけさ。わかってくれたかい?」 翔平はそれに納得して、次に核心に迫る発言を口にした。 「ああわかった、それで俺達は何をすればいいんだ、目的が無け れば話にならないだろう」 「君らには少し遠出して、データの採取や、その他諸々の任務を してもらうんだ。それを、地球を復元させる研究に使うんだよ。 かなり重要な任務なんだ」 「そこらへんは良くわからないけど、私達何も出来ないわ、訓練 も何も受けてないのに」 美玲が当然な疑問を話した。
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3-6 Ordeal(改) ( No.25 ) |
- 日時: 2015/10/13 00:35 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「そこは心配しなくて大丈夫だよ。ウチのエンジニアに身体能力
を増強させる装備を作らせておいた。君らはそれを装備した状態 で少し体を慣らしてもらい、こちらのテストに合格してもらえれ ばいいんだ。なーに、そんな難しいテストじゃないから安心して くれよ」 「不合格だった場合はどうなるんだ?」 前田の目が鋭くなった。 「もちろん、あの避難所に帰る事はできないよ。本物の刑務所で 労働だ。なんせ、国家機密だから公にしてもらうと困るからね」 一か八かのこの状態の中、龍太が口を開いた。 「さっさとそれ持ってこい、絶対合格してやる」 それに乗るように美玲も覚悟を決めたようだ。 「ええ、早く持ってきて」 翔平もうなずいた。 「OKだ、ついてきてくれ。あと、君たちはここで待っててくれ」 前田は軍人達を部屋に待たせて、三人を連れて部屋の中のエレベ ータに乗り込んだ。 下降してしばらく経って、[B3]とモニターに映り、ドアが開いた。 そこは青白いテクノ感の溢れた実験室だった。
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3-7 Ordeal(改) ( No.26 ) |
- 日時: 2015/10/15 22:35 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「ここを見てしまった以上、もうあそこには戻ることはできない
から、諦めてくれ」 前田はエレベーターから降りる時に呟いた。 実験室と思われるその部屋は、縦に細長く伸びた廊下のような 形をして、両端で研究員らしき人々が作業をしていた。その部屋 の奥には扉が二つあった。三人は前田に先導されて片方の部屋に 入った。 「これが、さっきも言った君たちの装備だ」 狭い部屋の真ん中の解剖台らしき物の上にそれはあった。前田の 説明が始まった。 よく軍隊が使うヘルメットに、ナイトビジョン、サーモグラフィ 、無線と呼ばれる類の多彩な機能が付いたヘルメット、 外気の温度を伝えない特殊なチタン合金とカーボンナノチューブ の繊維で編まれたというチョッキにジャケット、レギンスに、 アクリル樹脂の滑り止めコーティングが施され、腕にモニターの 付いたグローブ、 衝撃を吸収、放出する新素材が挟み込まれた、厚底のブーツ。 しかし、総重量は3キロ前後という軽さ、世界中から集められた 最高のエンジニア達の最高技術の結晶だと言われた。 「すげぇ……」 翔平たちの口からそんな声が自然と漏れ出ていた。
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3-8 Ordeal ( No.27 ) |
- 日時: 2015/10/17 23:20 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「はは、驚いたろ、君たちにこれを着てもらうんだ」
前田は三人に装備を渡した。 「でも何処で体を慣らすんだよ」 「ああ、こっちに来てくれ」 前田はそう言うと部屋から出て、もう一つの部屋に入っていった。 三人もそれについていく。 その部屋には一つのモニターとスイッチやマイクの付いた機械、 そして一人が入れそうなカプセルのような物体が三つあった。 前田は部屋にあるモニターの電源を付け、椅子に腰掛けた。 「ここからは僕が無線で説明する。スイッチをオンにして、その 転移装置に入ってくれ」 前田はカプセル状の物体を指さした。 「転移……?危ないことはないでしょうね?」 「大丈夫、動作は確認済みだよ」 前田にそう言われ、三人は転移装置に入った。 「じゃ、いくよ」 前田は機械に付いた一つのスイッチを押した。 その瞬間カプセルが閉まり強い閃光がしたと思うと、すでに三人 の姿は無くなっていた。
「なっ…ここ何処だよ…」 前田がスイッチを押した瞬間、目の前がホワイトアウトした三人 は、いつの間にか障害物のある白く広い空間にいた。 あぜんとしていると、聞き慣れた声がヘッドホンから聞こえてき た。 「あーあー、聞こえるかい?」
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3-9 Ordeal ( No.28 ) |
- 日時: 2015/10/21 00:41 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「うわっ!!」
龍太はいきなり声が聞こえたのに驚いたのだろう、尻餅をついて いた。 「ああ、聞こえる」 「よし、okだ。説明するから耳の穴かっぽじってよく聞いてよ」 前田の説明が始まった。 このホールは建物の地下深くにあるもので、ギミックなどが設置 されている練習場であるそうだ。そのギミックは研究者達が発明 したリアル・ホログラムと呼ばれるもので、空気中に漂っている 原子や分子を凝縮させて物質や対流を起こすことのできる技術で 、これを使って障害物や激しい天候の変動を再現し、人体の耐性 をつけたり、効率よく任務を進めるための訓練をするらしい。 ここには人体の皮膚を硬質化させる気体を放出しているため怪我 はしないのだという。 「説明はこれで終わりだがどうだ?一度やってみるか?」 前田は説明を終えた後聞いた。 「俺はやってみたいが…二人はどうだ?」 「当たり前だ、やってみるに決まってる」 「私もだわ」 三人の返事を聞いた前田は笑った。 「わかった、訓練を始めようか。内容やギミックの配置僕が決め るが覚悟して、僕は意地が悪いからね。目標は、そうだねえ…散 らばった鍵を障害物を避けて集めるってことで、よし、スタート」
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3-10 Ordeal ( No.29 ) |
- 日時: 2015/10/21 23:52 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 前田の合図が聞こえた瞬間、ホールの中にキラリと光る物が空中
に現れた。あれが鍵のようだ。 「1、2、3…全部で6個だ、行くぞ!」 翔平達は鍵に向かって走り出し、一番低い位置にある鍵めがけて 思い切りジャンプした。装備を着ている時は跳脚力が増強される。
ゴキッ
翔平は飛びすぎて天井に思い切り頭をぶつけた。そしてそのまま 地面に落下した。 「痛ったぁ…」 翔平だけではなかった。龍太はギミックの鎖に巻かれて身動きが 取れなくなっていたし、美玲はよほど面白いのか、ジャンプして 遊んでいる。 「十秒も過ぎないうちに失敗するとは…大丈夫か?」 前田は心配の入り交じった声で呟いた。 「こ、これから練習するから大丈夫だよ」 名誉挽回だ。 「当たり前だよ、練習あるのみだからね」
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3-11 Ordeal ( No.30 ) |
- 日時: 2015/10/23 23:01 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 前田の指示に従って、三人はホールから部屋に転移した。前田は
腕を組んでこちらを見つめていた。 「おかえり三人とも。最初のデモンストレーションは、見事に… 失敗に終わったね。まあ練習を積み重ねてゆけばそのうち上手く なるさ」 三人は落ち込んだ返事をした。前田は別の用事があるということ で、三人も解散することになった。軍人達の監視のもと翔平は、 部屋に戻り夕方まで自室に備え付けられたものを一通り確認した。 昨日はシャワーと寝室しか触れていなかったため気づかなかった が、クローゼットやタンスはもちろん、冷蔵庫やテレビ、小説も 置いてあった。翔平は夕飯とシャワーを済ますとソファに横たわ り、深い眠りについた。
次の日の朝、メイドさんのノックで目を覚ました翔平は気合いを 入れた。 今日から本格的な訓練が始まる。 着替えと朝食を済ませ、ホールへ向かった。
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3-12 Ordeal ( No.31 ) |
- 日時: 2015/10/26 20:42 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 三人は途中で合流し、前田の部屋に入った。
「おはよう。今日から本格的な訓練に入るが、覚悟はできてるか い?」 三人はうなずいた。 「よし、なら始めるとしようか、ついてきてくれ」 前田は立ち上がりホールへ向かっていった。三人もそれについて いく。
それから約2週間が過ぎた。 この2週間である程度の移動が出来るようになり、また搭載され た装備の操作にも慣れてきていた。三人も自分達の成長を気づい ていた。 ある日、訓練後に三人は前田から呼び出しを受け、前田の部屋に 向かった。 「来たね、疲れてるだろうけど重大な話があるんだ。そこに座っ てくれ」 「何の話だよ」 龍太はめんどくさそうにしていた。 「君達がここで訓練を始めてから1、2週間経つんだろ、昨日の 会議でそろそろテストをやってもいいんじゃないか、という意見 が出て可決されたんだ。ということで、明日か明後日にでも行う ことになったということを伝えたかったんだ」 やっときたか、この時が。三人は唾を飲み込んだ。明日、明後日 にテストが行われ、不合格者は本物の刑務所におくられる…
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3-13 Ordeal ( No.32 ) |
- 日時: 2015/11/24 23:48 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 「……で、明日の君達の健闘を祈る」
そういって前田は帰っていいことを命じた。既に日は沈んで、空 に赤みが掛かっていた。 もう時間はない。明日を万全な調子で迎えるため、三人は部屋に 大急ぎで戻り、装備の点検、翔平はイメージトレーニングをして いた。 明日、テストに落ちれば一巻の終わり… 翔平はハッと頭を振った。 テスト前からこんな事を考えているのは良くない。今はとにかく 明日のテストを無事に乗り切ることだ。二人も、無事に合格する ように祈ろう。
そう思いながら、腰掛けていたベットに横たわり、翔平は眠りに ついた。
太陽が、既に真上に昇っているころに、三人はテスト会場となる トレーニングルームに居た。 無線から声が聞こえる。 「これから君達のテストを行う。一生懸命力を尽くすように」 翔平は二人と目を合わせ頷いた。 「最初は、この前と同じの、空中に散らばった目標を採取する、 エアー・ターゲット・キャッチだ」 三人は体勢を整える。 「よーい、始め」 前田の呼びかけと同時に空中に目標が浮かび上がった。
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3-14 Ordeal ( No.33 ) |
- 日時: 2015/11/25 00:15 (dion)
- 名前: 蜘蛛◆k4P7BblWhnk
- 同時に三人は駆けだした。
翔平は近い二つの目標を両腕で鷲掴みにし、龍太は一つずつ確実 に採取していく。美玲は高所にあるターゲットをしっかり採取し ていく。 数十個はあっただろうターゲットは、わずか二十秒足らずで全部 消えていた。 「やはりか…僕の目に間違いは無かったようだ」 前田は呟き、無線から第一テスト終了の合図を出した。 三人は目を合わせた。 「体がいつもより軽いぞ…」 「確かに俺も感じる、美玲もか?」 「うん…なんだか自分が自分じゃないみたい」 「まあ、とにかくクリアした、次のもこの調子で頑張るぞ」 二人は返事をした。前田の声が聞こえる。 「次はチェイス・ウォール・ラン、迫ってくる壁から十キロ逃げ 延びられたらクリアだ。途中にギミックも配置する。瞬発力と、 判断力が必要だ」 そう聞こえると三人は自動的に転送され、細長く延びた一本道が どこまでも続いているようなルームに居た。 後ろには電気を纏ったような金属の壁が佇んでいる。 「よーい、始め」 同時に壁が、時速二十キロ程の速度で動き出した。 装備で脚力が強化された三人は一本道を猛烈なスピードで、走り 出した。
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